2016.05.13
アニメ ゲーム 漫画 優秀な女性クリエイターが活躍できる場を。保育所問題の解決に向けて
安倍政権になってから実質4年が経とうとしています。その中で、当初から掲げられていたアベノミクス3本の矢。そしてその3本の矢を支える重要テーマとして「女性が輝く日本へ」というものがあります。首相官邸ホームページには、「女性が輝く日本」に向けての特設ページが作られ、従来の「家庭か仕事か?」という女性の人生設計を根幹から変革させようと改革を進めています。結果として、従業員数300名以上の企業の管理職に占める女性比率が、6.9%(2012年6月)から8.3%(2014年6月)に増加しました。
しかし、女性に社会に出て欲しいという国策とは裏腹に「保育園落ちた日本死ね!!!」という匿名ブログに端を発して、働きたくても働けない、日中に預けられる先のない子どもを抱えた女性たちに対する施策をどうするかが問題となってきています。その背景には、認可保育園の数が足りず、過酷な労働の割りに低い給料で働かされる保育士に負担がかかり、保育士志望者の数も減少しているということが上げられます。今や保育園に入ることのできない『待機児童』の数は、厚生労働省によると2014年の時点で約43,184人にものぼっているそうです。これに対し、政府は助成の拡充等により保育所・保育士を増やして、2017年度末までに約40万人分の受け皿を整え、待機児童ゼロを目指すと発表しています。そのために保育士の基本報酬を上げるなどの対策を取っていますが、現状月額報酬ベース1人当たり+2,040円のアップをするに止まり、一個人的な感想で言うと、2,040円上がるか上がらないかは微差でしかなく、このままでは報酬は保育士になりたいかどうかの指標にはなりえないのではないのではないかというのが率直な所感です。
また、保育士の雇用を促進すると共に、保育士・児童の両方の受け皿となる保育所自体の用意も急務となっていますが、千葉県市川市で住民の反対により保育園の建設を断念したというニュースが話題となっています。建設予定地の周辺は、一戸建てが中心の閑静な住宅街で、高齢世帯が多い場所です。毎日新聞によると、2015年8月に開園を伝える看板を立てたところ、反対運動が始まり、住民側は市や社会福祉法人に対し、計画撤回の要望書を提出しました。産経新聞によると、市川市などは2015年10月以降、住民説明会などを複数回実施して理解を求めましたが、住民からは「騒がしくなる」という声のほか、予定地が幅約3メートルの道路に面していることから「予定地に面する道路が狭くて危ない」と交通事故の危険性を指摘する反対意見も相次ぎ、「住民に相談なく保育園設置が決まっており、市の対応に不満がある」と事前説明の不足を指摘する声もあったといいます。
他にも子供の声をめぐるトラブルは、2014年神戸市東灘区の保育園の近隣住民が「子どもたちの声がうるさい」として防音設備の設置や慰謝料100万円の支払いを求める裁判を神戸地裁に起こしたことや、東京都目黒区でも、2015年4月に開園予定だった保育園が、子供の声による騒音などを心配した住民からの反対運動を受けて、開園を延期したことがあります。一方で「子供の声を抑制することは、心身の発達段階にある子供にとってストレスになる」という意見もあって東京都は2015年3月、子供の声を規制基準に適用しないよう都議会で条例を改正していました。
市川市で断念せざるを得なかった保育園は社会福祉法人による大規模な私立幼稚園だったそうですが、特に一軒家が多く防音性に優れない地域や土地間隔が狭い住宅街などに保育園を建てるのはハードルが高いと言うことがこの一件で明らかになりました。
そこで、首都圏など特にそうしたスペースが確保しづらい地域で、自社ビルを所有している企業を中心に社内保育所の整備がはじまっています。第一生命では、自社ビルの空きスペースを保育所に積極的に賃貸すると発表しました。来年4月には池袋・立川それぞれに自社ビル内保育所が設立される予定です。ビルであれば防音の設備がしっかりしており、会社としても空きにしてしまうより賃貸収入が入ってくること、社員の福利厚生としても使えて、社員が送り迎えの時間を気にすることなく子どもを側に預けながら仕事ができる安心感があります。
上述の例は自社ビルを保有している大企業でしたが、外部の園児を受け入れるほどの大きな規模でなかったとしても、各企業で自社の社員の子ども向けにミニ託児所を作るだけでも、国家レベルの問題に対応することもできます。なによりアニメゲーム漫画業界で活躍する優秀な女性クリエイターが子育てで現場から離れてしまう損失を食い止めることは、重要な課題と言えます。クリエイターの持つ技術やセンスは、決して一定になることはなく各個人の持つ独自性に多いに左右されることがあります。その中で、才能のあるクリエイターが産後復帰できるか否かは小さな企業であればあるほど各個人の技量におもねらざるを得ない事情もあり、死活問題です。せっかく優秀なクリエイターを育てても結婚・出産によって仕事を離れなければならないという局面にいたり、涙をのんだ経営者も少なからずいることでしょう。かといって、才能のあるクリエイターは結婚・出産を断念せざるを得なくなるのはまた、女性の人生の選択肢を狭める極論になってしまいます。
結婚・出産で現場を離れるクリエイターの代わりに採用をしようとしても、ぴたりとはまる人が集まるかの確約はできないですし、長くいれば同じだけ成長してセンスを発揮できるかというと難しいと言わざるを得ないでしょう。クリエイター各個人個人が才能を発揮し人生も豊かに過ごすために、社内に託児スペースを用意し社内保育士の雇用を行うことも、今後の選択肢として可能性を持てるのではないかと思います。そのためにも、国から各法人に向けてのガイドラインや助成金などの法整備ができていくことを願います。