2016.05.26

ゲーム 開発案件が後ろ倒しになる理由 失敗できないアプリ事情

Sad Looking British Bulldog Pretending To Be Businessman案件開始が遅れる

最近、ゲームアプリの開発を行っている開発会社に訪問すると8割ぐらいの確率で「クライアントからの発注が先延ばしになっている」ということが話題に上がります。ある会社ではそのことを「やるよやるよ詐欺」という表現をして嘆いていましたが、開発会社にとっては確かに「詐欺」と言ってしまうほどのインパクトのある話なのだと思います。どういう状況のことを言うのかというと、クライアントから「御社に開発を発注したいので○○名、スタッフを空けておいてください。」という依頼が入り、受託する側が他に仕事を受けないでスタッフの手を空けて待っているにもかかわらず、待てど暮らせど仕事の資料も届かない。問い合わせをしてみると、「やることは決まっているんだけど、練り直していてもう1週間ほど頂きたい。」という回答。仕方がないので待っていると、いつのまにか1ヶ月半経っていた・・・。

実際には「いつのまにか」なんて呑気な話ではなく、この1ヶ月半のうちに何度も何度もクライアントからの担当者に接触を試みたり、気に病みながら耐えてみたり、当たり障りのないメールを送ってみたりと、みなさん涙ぐましい努力をしているそうです。連絡が取れた場合でも「もうちょっと」が続いてその結果、1ヶ月以上に渡ってスタッフをヒマにさせてしまっていたという事態になってしまうのです。

Businessman Protecting Paper Team On Deskスタッフの空きは死活問題

開発会社のスタッフの平均人月は60〜80万円です。1ヶ月半空くとなると、平均1人分で105万前後の損失につながります。1人だけならまだしも、複数人だった場合の損失はシャレになりません。お金になる仕事をしていなくても、出社している以上は給料を払う必要があります。交通費も払います。光熱費だって、諸々かかります。自社でもオリジナルアプリを出していて、そこそこ課金収入があるという場合であればまだ社内開発を進めて収入源を作るという道も残されていますが、開発会社の収入源はやはりほぼ8割9割が受託開発の予算、もしくは出向の人月単価です。人が稼働することによって初めて利益が出るモデルにいる場合、スタッフを動かしていかないことには直接的に会社の業績に関わる大問題につながります。

かといって、「押さえておいてくれ」と言われたチームを解体して他の仕事に当たらせるなんてことがすんなりできないのがこの狭い業界の事情です。クライアントからGOサインが出た時には会社維持のためにとりあえず出向に出してた人員が戻ってこれなくなっていたなんてこともありますし、もしそれでクライアントとの縁が切れてしまったら、また新しい仕事を探しに新規営業に出なくてはならない生活が待っています。開発会社の社長は、できる限り営業したくないのです。ツーカーの仲になっているクライアントから声がかかり、継続的にほぼお任せ状態で仕事ができれば一番いいと思っている社長がほとんどのはずです。「断って仕事がこなくなってしまったら・・・?」「営業がうまくいって同時期に2案件受けられなくて困るような状況になってしまったら・・・?」と、自社のスタッフを守り会社を守る経営者の視点と、クライアントと波風立てたくない営業マンとしての視点を、開発会社社長は常に行き来し頭を悩ませています。

Businessman protects himself from crisisなぜ遅れるのか

では、なぜクライアントは声だけかけて1ヶ月間、またそれ以上も開発会社を待たせるような状況になってしまったのでしょうか。それは、アプリの開発予算高騰に関係しています。現在、ゲームアプリの開発予算は全体で1〜5億円ほどとなっています。この開発予算ありきで企画が進行し、これに見合った課金収入が見込めるものを、とクライアントの内部でも圧力がかかっているのです。そのため、大きな枠組みでのゲーム企画が決まった段階で外注先を探し始めますが、細かな仕様部分が最終決定でき、それを外部委託用にブラッシュアップするのに時間がかかるのです。3Dも搭載され、ゲームアプリがどんどんリッチ化していき、ユーザーの目も肥えて要求が高くなるにつれ、フリープレイ&課金方式で黒字にするように最初段階から設計を行うのが難しくなってきています。普段、開発会社のみなさんが接しているようなクライアントの側のディレクターやプロデューサーは相当なプレッシャーと戦いながら、みなさんに先延ばしを謝っていると考えてあげた方が良いでしょう。
その点、『パズドラ』で累計4千億円以上売り上げ、一世風靡したガンホーの木村プロデューサーは、2012年に行われたCEDECの講演会で「実は、パズドラはもともと170円で販売する想定で開発を行っていました。170円と聞くと結構安く思えるんですけど、App Storeではかなり高めの金額になります。この価格で提供する覚悟で最後まで作りきったことが、パズドラのヒットに繋がっているんじゃないかと思います。無料でゲームを遊んでもらおうとすると、よこしまな考えで「どうやってお金を稼ごうか」とか考えてしまったりして、ゲームの要素を全部出し切らないうちに、突然「ここからはお金払ってください」みたいな形になったりします。最初から有料販売するつもりで作ればそういった考えは働かないし、結果的にかなり成功の近道になるのかなと思います。」と発言しています。実際に、肝になるパズルの挙動部分だけで開発費が数億円かかっているという噂もあります。有料で出すためのクオリティで作り、最終的に無料でリリースすることに踏み切ったという英断は、社長の森下さんの「売上よりもおもしろさ重視」という考え方のもとに成り立っているもので、それが結果的にうまくいった形になっているのだと思います。

Businessman being depressed by working in officeパズドラはレアケース。実際は「失敗できない」に支配される現場

これは全てのメーカーが実現できる話ではありません。利益度外視で作る怖さはメーカーだけでなく開発会社のみなさんも骨身にしみているはず・・・。とはいえ、売上だけ見ていてはユーザーがついてこないのも確かです。開発会社のみなさんの、待たされて厳しい経営事情も、クライアントの担当者のプレッシャーの中で「失敗できないぞ」と思いながら企画を進めていかなければならない状況も「フリープレイモデルで収益を上げなければならない」という前提条件によるものなので、この悩みが解決されるためには業界構造そのものを変えていく必要がありそうです。

とはいえ、すぐに何か変わるわけではありませんので、ビ・ハイアではお仕事待機中にご紹介できる細かい案件のご紹介なども無料で行います。業界発展のために、御社が残り、良いものを作り出していつか業界構造を変え、ユーザーもクライアントも開発会社も全てがハッピーになるためにお手伝いできれば幸いです。

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PROFILE

大山 莉加 執行役員

大山莉加

ラクジョブ運営会社ビ・ハイア株式会社のBLofBLにして、千葉出身の東京都港区民。肉食系女子に見せかけたBL。BL好きのコスプレイヤーと思いきや日本で最もアニメゲームマンガ業界の案件情報、ビジネスマッチングに優れてるのでは・・・と思わせる情報量。彼女のおかげで倒産の危機を乗り切ったり、突然ラインが空いた!!という悲劇を乗り切ったアニメゲームマンガ業界の社長も多い。