2016.03.24
プロダクションI.G.、フジテレビなど 視聴率低下に見えるコンテンツ展開の新たな方向性
3月15日にフジテレビの子会社「フジゲームス」設立のニュースがあり、続いて本日、プロダクションI.G.のアニメグッズ店開業のニュースが発表されました。いずれも4月からのスタートですが、これらのニュースによってアニメゲーム業界に春の嵐が吹き荒れています。プロダクションI.G.はアニメ制作会社、フジテレビはテレビを主体とする放送局です。この2社に共通する部分は、「映像」を扱う会社であることです。フジテレビの制作する番組も、プロダクションI.G.の制作するアニメーションも、基本的にはテレビという媒介を通して無料で放映されます。アニメ業界のDVDパッケージの販売本数の減少に関しては昔から取りざたされ、厳しい業界だと言われ続けていますが、それ以上に厳しいのは実はその媒介であるテレビ業界です。
フジテレビの月9枠と言えば、旬の俳優・女優を起用した花形ドラマ枠で、長年テレビ視聴者に愛され、名作と言われるドラマをたくさん輩出してきましたし、福山雅治や木村拓哉など月9ドラマの主人公格を務めたことによって俳優として一段人気を上げた例もあるほど、影響力のある放送枠ですが、直近の月9ドラマにはある異変が起きていました。人気俳優、高良健吾と女優、有村架純を起用した「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」が、平均視聴率10.2%で月9枠過去最悪の視聴率をたたき出してしまったのです。「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」のドラマの質については「東京ラブストーリー」「Mother」など“月9”作品10本を手がけるヒットメーカー・坂元裕二氏によるオリジナル脚本で骨太な男女群像劇でおおむね好評だったにもかかわらず、数字に結びつかないという状況です。月9としては過去最悪視聴率という部分だけが取りざたされていますが、テレビ業界全体として視聴率が全体で15〜20%ほど落ち込んでいます。(ビデオリサーチ調べ)
もはや、良いものを作れば視聴率が上がるのかというような問題ではなく、潜在的にテレビを見る層自体が減少していると考えていいでしょう。テレビ映像の質は上がっています。アニメの作画に関しても、映像クオリティとしても上がっていますが、そもそも見る人が減っているのでは訴求しにくいですしテレビでいくら広告しようともそれ自体、お茶の間に届いていないという状況なのでDVDパッケージの販売本数が減っているのも頷けます。
10年前までは、無料で楽しめるエンターテイメントの代表格がテレビ放送でしたが、それも今は昔。現在ではスマートフォンのアプリやネットの情報なども含め、一般ユーザーが選べる無料コンテンツの幅は格段に増えました。テレビでは放送時間の拘束がありますが、ネットであればいつでも好きな時間に好きなコンテンツを楽しむことができますし、より自由度が高くなります。テレビで放送された映像作品すら、リアルタイムでYOUTUBEにアップされて見ることが出来てしまう時代です。違法ですし、権利元からの削除申請も進められていますが、まだまだ検閲の目が全てに行き届いているとは言い難く、見たい放送があった場合はネットで検索しますし、全てスマホで完結できてしまうという状態においてテレビはもはや家庭のオブジェクトとなってしまっていることも少なくはないのではないでしょうか。
しかし、DVDを売りコンテンツで売上を立てたい側としてはそれは死活問題です。前述の通り、質の良いコンテンツを作っていることは確かなので、見ている人からの評判は良いですし、ドラマ・アニメを愛好するファン層は拡大していっているようにも思います。それにも関わらずパッケージが売れないのは、いつでも映像がネットで見れてしまうことを考えると同じものがパッケージ化されているだけのものに払うにしては割高感が出てしまうからです。
上記のような事情があるので、既にコンテンツに対して興味を持ち、評価してくれている一定のファン層に向けての横展開をしていく必要があり、それがグッズ店やゲーム展開という形で現れたのが最初のセンテンスのニュースでした。パッケージそのものではなくコンテンツをIPコンテンツとしてテレビ以外の媒体でアピールして行くために、リアル店舗やゲームへの展開は有効です。他にも、カフェやイベント展開などを行っていく会社は今後更に増えていくでしょう。「映像」を「映像コンテンツ」として売る市場が崩壊した現在、コンテンツ賭してどのように伸ばしていくことができるか、まだ未開拓のニーズを広げていくことが今後のコンテンツ横展開の課題です。