2016.05.30
ゲーム 経営戦略 事業継承かM&Aか スマホ業界に買われるコンシューマー開発会社
最近、ゲーム業界の中にもM&Aが浸透し、複数の事例が出てきています。日本初のコンピューターゲームが生まれてからまだ43年と、歴史の浅い業界。ゲーム業界の中で半世紀残っている会社は未だないとも言い換えることのできる、若く勢いのある、テクノロジーの最先端を行く業界でもあります。そんなゲーム業界では、43年の短い歴史の中で数々の大きな変遷を経てきました。ゲームをプレイする筐体が店舗据え置きから家庭用に変わり、JAVAやBrewの携帯単発アプリからオンライン、PC、ソーシャルアプリ、スマートフォンネイティブアプリへと広がりを見せていく中で、ゲームの提供元も変わり、大手メーカー
のみならず個人でもゲームを製作し発表していける時代になりました。当然その中でゲーム制作体制におけるパワーバランスにも変化が生じます。
大きなニュースとしては、2005年のバンダイとナムコの統合や『ドラゴンクエスト』で有名なエニックスと『ファイナルファンタジー』で有名なスクエアの合併、2010年のコーエーとテクモ合併、次いで4年後のガスト吸収など、2000年代以降、大手ゲームメーカー同士の吸収・合併・再編が相次ぎました。これらは単純にコンシューマー業界の経営不振や、お互いの弱みをカバーし合う意味合いでのM&Aで、プラットフォームを持っている圧倒的一位であるソニーや任天堂へ対抗していくための戦略でもありました。しかし、最近はまたこれとは事情が異なっているようで、同じパワーバランスの企業同士の合併ではなく、大企業が中小企業を買い取る形での吸収合併の形が進んでいるように見受けられます。
ソーシャルアプリケーションプロバイダー。通称SAPの急激な立ち上がりの過程で、2010年代以降、ゲーム開発会社のみならず、多くのITベンチャーが大量にSAP業界に参入し、大量のタイトルが市場に投入されることとなりました。一方で、国内の会員数は飽和に近づいており、DeNAやGREEなどのプラットフォームの広告枠も制限されるため、大手20社以下のSAP企業の収益性は陰りを見せ、プラットフォーム内での人気アプリランキングも固定化されていき、ユーザーの固定化、高収益なソーシャルゲーム事業者とランキング上位に食い込めない事業者との格差が歴然としたところで、プラットフォーム自身の価値も下がって言ってしまいました。
そのため、プラットフォーマー自身も自分たちのIPを作るための制作体制を作る事を余儀なくされ、自身の作ったプラットフォームを棄ててネイティブ市場で勝負する時代へと変遷していきます。ネイティブアプリの盛り上がりによって、個人でもゲームを制作して申請すれば簡単にアプリを売り出すことが出来るようになり、カジュアルゲームの流行も生まれましたが、ランキングやフリープレイモデルの課金方式が加速するにつれ、勝負できるアプリに必要な開発費も高騰していき、新規ゲームアプリ制作は資金力のある会社の独壇場となりかけています。そんな中、問題とされているのが開発費高騰と、内容のリッチ化に対応出来る開発者の獲得についてです。
いまや、開発費もコンシューマーゲームと遜色ない値段になってきて、億を超える予算を用いてスマートフォンのスペックを最大に使ったゲームらしいゲームを作成することが求められています。フリープレイモデルの特性として、最初段階で興味を持ってもらい、運用で様々なイベントを投下して継続して遊び続けてもらうことで、ゲームに愛着を持ってもらい、課金へつなげていくということが条件として必須になってきているため、遊び続けられるゲームとしての優秀さが企画だけでなくユーザビリティ、ゲームの中身の出来の良さも含めて重要なのです。
しかし、もともとIT系のデータを読むのに長けた集団から出てきた新興SAPの中には、課金したいと思わせるビジネス戦略を練るプロはいても、ゲーム開発に長けたプロはいません。特に、アプリといえどコンシューマーゲームのレベルにまでゲーム性が高く、アプリの最大表現を理解し、サーバー負荷も計算した上で良質なコンテンツにまで昇華できるような人材は、獲得しようと思っても難しく、かつ採用できたとしても育てる環境がありません。そのため、大手SAPによる人材・ノウハウの獲得のためのM&Aによる業界再編が現在加速しているのです。
以前は、M&Aというと「ホリエモン」を筆頭とする若手資本家の派手な活躍により、必ずしも好意的な出資だけでなく企業に対しての敵対的買収などの良くないイメージがつきまといました。しかし、昨今ゲーム業界で起こっている大手SAPからのM&Aは、コンシューマー時代から続く老舗開発会社ではむしろ歓迎されている向きもあります。
それは、30〜40年前に夢を追ってゲーム会社を起業した、開発職上がりの社長もそろそろ60代前後になり、現場から離れて久しくなっており、自分たちでゲーム業界を盛り上げてきたという自負もあるものの、最新のゲームの流れの速さに対して自分が陣頭指揮を執ることに抵抗が出てきているからです。社内で後継者を育てていくパターンもありますが、ほとんどが一代で自分の制作を表現するために作り上げた会社。継がせて永く残したいというよりは、よりよいゲームを作る事や最新の技術に触っていることの方が興味がある、技術畑の社長の方が圧倒的に多いのです。
そうした、後継者を用意すべきか否かで悩んでいるコンシューマー時代を活躍した開発会社社長にとっても渡りに船な話が、大手SAPからの「御社の技術力を買いたい。」と言った話なのです。技術力に強みのある中小ソフトハウスにとって、社員たちの技術力が潤沢な資金力のある大手で最新アプリの開発に活かされるというのは魅力です。受託で数十年、開発スタッフ達の手が空かないように営業を続けて細々経営してきた重圧から解き放たれるという安心感もあります。そんな事情もあって、「技術を買ってくれるなら」と大手SAP傘下に入る中小開発会社が近年増えているのです。
実際に話を聞いたわけではありませんが、コロプラやカヤック、ユナイテッドなどもそうした事情でコンシューマー開発技術力を買うことを目的にM&Aを進めているのではないかと感じます。
とはいえ、まだ会社として若すぎるのではないか、とか本当にそれで社員が幸せになれるのか、とか本来は後継者を育てたいけどうまく行かないと言ったような悩みもアルかと思いますので、M&Aに関するフォーラムに参加するのも手でしょう。
◆日経産業新聞トップフォーラム
「事業継承を問う〜円滑なバトンタッチと成長へ〜」
【登壇者】
13:05~14:05 イー・アクセス創業者 千本倖生氏
14:05~15:05 大塚家具代表取締役社長 大塚久美子氏
15:15~15:55、15:55~16:35 日本M&Aセンター業界再編部長 渡部恒郎氏
【日時・会場】
6月30日(木)午後13時〜16時35分
日本経済新聞社東京本社ビル 6階カンファレンスルーム(大手町)
【受講料】
1万6200円(税込)
【申込先】
http://school.nikkei.co.jp/special/16shoukei/index.html