2016.05.18
アニメ ゲーム 声優 仮歌からつながったデビュー 元裏方サウンドクリエーターeyelisがファーストアルバムをリリース
元サウンドクリエーターの3人組ユニット『eyelis』がファーストアルバムをリリースすることで、話題になっています。eyelisはワーナーエンタテイメント所属のユニットで、TVアニメ『赤髪の白雪姫』のエンディングテーマソングなどを手がける、作曲兼ボーカル2人、ギター1人の構成なのですが、特筆すべきは彼らがずっと業界の裏方として他のアーティストに楽曲提供などをしてきたサウンドクリエイターであることです。メンバー個々としてJ-POP、アニメソングなど幅広く楽曲提供をする一方、ユニットとしてアニメーション作品の主題歌などを担当。これまでに「CANT’ TAKE MY EYES OFF YOU」(「ハヤテのごとく!CANT’ TAKE MY EYES OFF YOU」OPテーマ)、「ヒカリノキセキ/未来への扉」(「神のみぞ知るセカイ 天理篇」主題歌)、「OUTLAWS」(「THE UNLIMITED 兵部京介」EDテーマ)のシングルをリリースしてきました。
仮歌の歌い手には、様々なジャンルの歌を様々なアーティストに対応して、正確な音程で明確にわかりやすく歌う技術が問われます。ガイドが優秀であればあるほど、工数も減りますし、本番のアーティストが楽曲の伝えたいイメージを汲み取って歌に乗せてくれることで、良いものが仕上がりやすくなるのでそのポジションはとても重要ですし、優秀な仮歌の歌い手は様々な現場で重宝されます。まさに、表舞台には出ないですが裏方の業界では着々と実績と評判を積み重ねて成功してきた典型例と言えるでしょう。
あの国民的大人気アニメの主題歌も仮歌がきっかけ
同じように、あの国民的大人気アニメ『ONEPIECE』の主題歌、『ウィーアー!』も実は仮歌がきっかけで語り継がれる「神曲」の地位を確立しました。1999年のアニメ放送開始以来17年、様々なテーマソングが出てきましたが、いまだに『ONEPIECE』の主題歌といえば、『ウィーアー!』と答える人も多数いるような人気ソングを歌うきただにひろしさんは、今やアニソン界の大御所が一同に会するアニソンユニット『JAMProject』の一員でもある人気アニソンシンガーですが、もともとは『ウィーアー!』は他の人が歌う前提で、きただにさんに仮歌依頼が舞い込んできたのだというエピソードは、実はそんなに知られていません。『ウィーアー!』の作曲者、田中公平さんがきただにさんに仮歌を依頼し、それをアニメ関係者に提出したところ「この人にこのまま歌わせよう」と急遽正シンガーに昇格しました。その時の気持ちをきただにさんは「アニメありきのアニソン。ピュアな気持で臨んだのがよかったのだ」と振り返ります。『ウィーアー!』のアンサーソング『ウィーゴー!』では作曲者田中さんが「今のきただにがあるから作った、オーダーメイドの曲だ」とブログでメッセージしてくれるなどアニメありきのアニソンというだけではなく、この十数年『ウィーアー!』を歌い続けてきたきただにさんも、『ONEPIECE』という作品の『ウィーアー!(俺たち!)』の一部なんだという気持ちが込められた、一段階進化した楽曲になりました。
仮歌シンガーから、表舞台へ羽ばたいたeyelis、きただにひろしさんに共通することは、自分のための歌を歌っているのではないというところです。「自分を表現したい」という欲を前面に出さず、あくまでアニメありき、作品ありきの中の歌としてどう表現するのが作品にふさわしいかを考えて丁寧に歌い込んでいった実績を積み重ねることで、作り手側から圧倒的支持を得て表に押し上げられていきました。「自分が」いい歌を歌いたい、「自分が」有名になりたい、では周りの人も巻き込んで感動を生むような、周りの全員が押し上げて上げたいと思うようなものは作れないのです。
「他人の視点に立つ」というのは当たり前のことですが、難しい。仮歌であれば、自分だけの指標ではなく作曲家の思いを汲み取ること、そしてその思いを伝えやすく歌いやすく本番シンガーに配慮すること。最終的にはそうやって出来た歌がファンの全員に伝わっていくことを考えていく必要がありますので、「他人の視点に立つ」ということを何千、何万人分も想定して自分の持ちうるベストを引き出し、放っていくしかないのです。そうして先々のまだ顔も見えない、もしかしたらずっと未来にも続いていくようなファンたちに向けて作品の持つ想いを作曲者、シンガー、作品の中の人達全て背負って届けていこうとする姿勢は、シンガーだけでなく全てのクリエイターにも必要な考え方です。自分が成功したいとか有名になりたいとか作品をヒットさせたいとか言った想いは、自分の人生80〜100年単位の話ですが、作品自体は、ファンが居続ける限り何世代も続き、受け継がれて数百年単位で残っていく可能性があります。クリエイター個人の人生時間なんてそう考えたら短いものです。成功するとか有名になるとかは、結果の一例にしかすぎません。作品は自分が死んでも残るもの。そうした作品を作って行くために、もっとも近い方法の第一歩としてのメジャーデビューです。死んだ後も残していきたい想いは何か。どんな人に、どんな風に伝えていきたいのか。それを考え、自分のベストを出し続けることが作品作りに於いて一番重要なポイントなのではないでしょうか。その思いを共有している裏方から支持されて表に出てきた2組の話は、その象徴になるのではないかと思います。